💠プロローグ

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とにもかくにも、怖がる彼女が突然歌い始めたのがきっかけだった。 俺には耳に馴染んだ曲。 しかしそれは知る人しか知らない曲だ。 インディーズバンドで 〝ボディスペシャル〟っていうんだけど、メジャーじゃないから知っている人なんて滅多にいなくて。 俺も一緒になって歌ったらすげー驚かれて。 まさかお互い、同じバンドのファンだとは思いもよらなかったわけだ。 それは彼女にとっても同じだったみたいで、俺らは目を見開いてしばらく見詰め合った。 〝なんであんた知ってんの?〟 開口一番〝あんた〟は無いだろうと思ったが、彼女はそういうキャラだから仕方がない。 それからは花火そっちのけで、自分がどれほどボディスペシャルを好きかという自慢大会が始まり―― いつしか「俺たち気があうな」になり―― 勢いで「つき合うか?」と言ったら―― 〝うん〟って。 ほんと人生って、どう転ぶかわからないもんだ。 花火大会に行く前まで、今日振られたばかりの憐れな男だった俺は、気付けば彼女持ちの男へとステップアップ。 あれから丁度一週間になる。 俺たちはいま、ボディスペシャルのライブを見に、広島へ向かっている。 一泊の予定で! まだ手しか繋いだことのない彼女と、今夜泊まるわけだ。
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