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菊谷は何となく勿体ない事をした気になり、ため息をついた。
「まあ、仕方ないじゃないか。今日は外に食いに行こうぜ」
菊谷がそう提案すると、洋平は頷いた。
「あ──そ、そうだ、今日は俺が奢って──」
「あ、メールだ」
菊谷が顔を赤めながら話を切り出そうとした瞬間に、ケータイを開いた洋平。菊谷は声を押し殺してケータイが閉じられるのを待つ。
だが、ケータイは閉じられる事はなく、逆に洋平の叫びが聞こえた。
「なにぃぃっ!?」
「ど、どうした?」
不意に上げられた声に驚いて、菊谷は身をたじろぐ。
「……弟が、さらわれた」
「は?」
菊谷が、洋平に渡されたケータイを受け取り、そのメールを見ると、そこには――
『弁当屋……もとい弟は預かった。三年二組の吸湿まで濃い』
メールを見て、二人は目を合わせた。
「……漢字、間違え過ぎじゃね?」
**
「ふははは」
三年二組の組長である草薙は、弁当を突きながら高笑いしていた。
「む、もう無くなった。デーモンヘル久野は小食なのか」
「あのー」
洋介は、そんな草薙と周りに群がる男達の前で声を上げた。
「む、どうした少年よ。君はおとなしくしているが――」
「キッチンあれば、僕が作りますよ?」
その一言に、その周りに居た者たちが唖然としていたが、次第にその表情に笑みを浮かべ、洋介の身体へと手を伸ばした。
**
殴り掛かってくる男の顎に蹴りを入れた菊谷は、動きを止めた男に回し蹴りをかます。吹き飛ぶ男には目もくれず、三年二組の教室まで向かう。
「あいつ……弁当くらい遅刻してまで届けようとすんなよな……」
洋平が愚痴りながら歩を急がせると、菊谷は可笑しく思い笑ってしまう。
「なんだかんだで仲が良いんだな」
「そりゃあな。可愛い弟だし」
頭を抱えながらも真面目に答えた洋平に、安心感に似た何かを覚えた菊谷は、三年二組の教室を開けた。
だが、誰も居なかった。
「?」
気になり、周りを見渡すと、黒板に落書き以外が書いてありそれを読んだ。
『かていかしつにいます』
隣の落書きには『喧嘩上等』と書いてあるのに家庭科すら漢字で書けない先輩に同情した。
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