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「駅まで送るよ」
葛城はそう言って、あたしをつれて駅までの道程を歩き出した。
その間、終始無言の葛城に、あたしもただ黙ったまま葛城の後ろを歩いた。
これって玉砕かな……
泣き出したい気持ちを必死に抑え、前を歩く葛城の足だけを見ていた。
改札までもう少しと言ったところで、急に葛城が足を止める。
あたしもそれに気づいて、足を止めた。
「新田さん」
「……はい」
葛城はあたしに背を向けたまま喋り始めた。
「家事とか全然できなくて、今まで散々迷惑かけてるけど、新田さんはそんな僕がいいの?」
「せんせ……春樹さんが好きなんです」
「生まれてこの方、女の人と付き合ったこともないような奴だよ?」
「あたしだって恋愛経験は乏しいですよ」
「それに、恋人って具体的にどういうことすればいいのかわからないし……」
あたしはその言葉にはっとして、葛城の前に回り込んだ。
そこには頬を赤らめ、困って泣きそうな表情をする葛城がいた。
終始無言だったのは、どうやらいろんなことを考え、葛藤していたからだったらしい。
そんな葛城を見て、先程までの悲しい気持ちはどこかに吹っ飛び、あたしは沸き起こる嬉しさから自然と笑みが溢れた。
「こういうことをすればいいんですよ」
そしてあたしは、爪先立ちして葛城にキスをした。
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