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後日、あたしは駅から少し離れたとある大型ショッピングモールに向かっていた。
出かける前に一通り身だしなみを整えてきたが、何故か漫画みたいにショーウインドウのガラスなどでおかしい所がないかいちいち確認してしまう。
いつものあたしは、ポニーテールにジーンズなど動きやすい格好というのが特徴。
だが今日は、ポニーテールを下ろして少しウェーブをかけてみたし、服は白いレースの羽織物に薄ピンクの花柄ワンピースを着てみたものだから落ち着かないのかもしれない。
待ち合わせ場所はショッピングモールに併設された映画館のロビー。
夏休みで人が多いせいか、葛城の姿が見えない。
まさか、寝坊……はないよね。
仕方なく葛城の携帯に電話をかけてみる。
数秒の後、繋がった。
「もしもし、先生もう待ち合わせ場所に来てますか?」
『来てるよ。でも新田さんが見当たらない』
葛城はいるらしい。
「どの辺にいます?」
『入口の自動ドアの横に』
言われた場所を見ると、確かに葛城がいた。
ただし、以前の私服同様ファッションモデルのような服装に、首から上がいつも通りな葛城だが。
「先生、ピン留めは?」
問答無用で予備に持っていたピン留めを前髪に留めてやった。
「…………」
「どうしたんですか?」
葛城は何か驚いているようで反応しない。
もしかして、あたしの服のコーディネートが変だった?
そう不安になっていると、葛城がぽつりと喋り出す。
「新田さん」
「な、なんですか……」
「髪下ろすと可愛いね」
数秒後、自分でもわかるくらい顔が赤くなった。
葛城ってば、突然なんてこと言い出すの!!
一瞬、そう叫び出しそうになり、何とか抑えた。
よく見ると、当の葛城は自分が口説き文句を言ったことなど気づいてさえいない。
「もう、そんなこと言ってないでさっさと行きますよ!」
それでもあたしは嬉しいやら恥ずかしいやらで、つい乱暴に葛城の腕を掴んで劇場へと向かった。
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