とある梅雨の物語

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あっ、でもこんなことをしている場合ではない。天体望遠鏡が濡れてしまう……。 私はなくなく急いで天体望遠鏡を解体してケースにしまい、麓の公園へと足を運んだ。 手近にあった屋根の下で椅子に座りため息を漏らす。それはもう誰が訊いても落胆していると思えるように大きくはぁー、と。 髪も服もびしょびしょ……。けれど命の次に大事な天体望遠鏡は気付くのが早かったお陰で軽傷で済んだ。 今日こそは観られると思ったのに……。髪と服に浸み込んだ水を絞りながら、本当なら今頃観ていた筈の春の大三角形を脳内に思い描く。 「ひゃー、冷てえ!」 隣から声がし、私は慌てて振り向いた。
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