とある梅雨の物語

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彼の面持ちはとても寂しそうで、哀しそうだった。本当に彼は天体観測が好きなんだと私は思った。私も彼に習ってもう一度空を仰ぐ。 「星ってさ、すげえよな。何万キロ、何十万キロも離れているのに、わざわざ俺たちに光をプレゼントしてくれるんだぜ? その光はさ、星座となって俺たちの視覚を釘付けにするんだ」 余程彼は星について語れる友達を探していたのだろう。彼の眼差しは子供のように無邪気で、そして私が今までに観たどの星よりも輝いていた。 「今日は春の大三角形を観に来たんだ。デネボラにスピカ、アークトゥルス――。それは多分友達とか、家族とかそういった類で、どれが欠けても春の大三角形には成り得ないんだ」 そこで話しは終わった。私は何も言わない。ただ、笑顔にならない空を疎ましく見上げる。 彼と天体観測を出来ればどれほど楽しいことだろう。そんなことを考えながら――。
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