タチアオイの少女

5/9
前へ
/9ページ
次へ
 鈴花だった。  鈴花は僕が幼稚園の頃に引っ越して来た時からずっと隣の家に住んでいる。俗に言う幼馴染みとか云うやつなのだろう。元はと云えば唯の隣近所だったんだ。それから近所付き合いだかなんだかで、親同士が仲良くなった。そこまでは良いとしよう。が、いつ僕が鈴花と接点が有ったんだか全くと言って良い程覚えていない。まぁ三、四歳の頃の記憶が無くったて僕に何の罪もないだろう。それでも許せない事が一つだけある……。鈴花は僕と最初に会った時、その他諸々を覚えている事だ。一見何とも無いように思われるが大間違いだ。何かと喧嘩なんかすると「あの頃の由紀君は……。」と、毎回言われるんだ。卑怯な奴め。それでもそんな卑怯な奴にも屈すること無く、今日と云う日を迎えた訳だが……。流石に今回と云う今回は恥ずかし過ぎる。話し掛ける前は春爛漫だったのにも関わらず、話し掛けた途端に僕の心は氷点下の大陸にたった一人取り残された気分になった。惨めなこと此の上無い。張り切って話し掛けた相手がよりによって鈴花なんて、願ってもない神様からの贈り物だろう。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加