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小さな町の小さな喫茶店に一人の男性が入ってきた。 二時間ほど前に降りはじめた雨は、小降りになっている。 彼は片手にビニール傘を持ち、気まずそうな顔を向けながら、ある女性の方へ近付いて行った。 彼女は一時間ほど前に入ってきた客だ。 誰かと待ち合わせをしているらしく「何名様ですか?」と店員に聞かれると、二人だと答えた。 座ると、紅茶を一杯頼んだが、運ばれてきた紅茶にはまだ手をつけていない。 「ごめん、遅れちゃった……」 と、男性が女性に言う。 どうやら二人は恋人のようだ。 女性の方は、じっと相手を見るとプイと顔を背けてしまう。 「あぁ、怒ってる……」 嘆きながら男性が向かい側に座る。 しばらく女性の顔を見てじっとしていたが、気まずくなったのか首を曲げて外を見始めた。 そして、突然やんわりと笑顔を浮かべると、 「虹だ……」 と空に向かって呟いた。
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