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『……すいません。
大きな声を出してしまって…』
俯いたまま何も言わないその人に、僕はゆっくり話始めた。
『半年前に…
兄夫婦は事故に巻き込まれて亡く
なりました。カムイも車に乗って
たんですけど、奇跡的にかすり傷
一つなく無事だったんです。
それからカムイは孤児として
教会の孤児院で暮らしていて…
つい先日、カムイの里親になる御
夫妻が決まったんです。
明日、カムイはそちらに養子とし
て引き取られていきます。
僕は、最後の思い出にと、この公園に
散歩に来たんです…』
僕は、砂場で楽しそうに遊んでいるカムイを見つめる。
その視線に気が付いたのか、カムイはニッコリと微笑んだ。
『どうして君が…
あの子を引き取らないの?』
それまで、何も言わなかったその人は、ゆっくりと顔を上げ足を組み直すと、僕と同じく砂場で遊ぶカムイを見つめていた。
『僕には…カムイを引き取る資格が
ないんです。
日本で、きちんとした定職に就い
ている訳ではないので。
それに……
兄弟と言っても兄と僕には…血の繋がり
はないですから。
僕に出来ることがあるのなら…それは……
カムイの幸福を祈ることだけなんです』
カムイを見つめる視界がぼやけた…。
泣かないって決めていたのに…
なぜかこの人の前だと、隠しきれない感情が溢れ出しそうになってしまう。
大好きだったあの人と同じ顔をしてるから?
大好きだったあの人と同じ瞳をしてるから……?
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