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そんなことを考えていると、隣の畑野が目を覚ました。
「…れ?わークルトン降ってる!」
畑野は素っ頓狂な声を上げて窓の外を見た。
「良かったぁ、オレ今日ちゃんとサラダボウル持ってきてる!」
スクールバッグを覗いきながら畑野が言った。
「そりゃぁ良かったですねーだ。」
「は?」
思わず悪態が口をついた。
ぽかんとしていた畑野を放っておくと、担任が入ってきて、帰りのホームルームが始まった。
…でも、私の頭の中は畑野と、ジンクスと、あいあいボウルで一杯だった。
ホームルームが終わり、昇降口で靴を履き替えながら、(クルトンって小さいくせに中々当たると痛いんだよね…)なんて考えていた。
すると後ろから誰かが走ってきて、ドン、と私の肩にぶつかった。
「っ!」
「あ!悪い!」
振り返って謝ったのは畑野だった。
「お前かよ。ボーっと立ってんなよ」
「なっ、何よ!そっちがぶつかって来たんじゃない!」
駄目だ。これじゃあ、あいあいボウルどころか恋も愛もあったもんじゃない。
もっと、優しい、可愛い子になりたいのに。いつだって素直になれない。
「あれ?」
「?」
いきなり畑野が不思議そうな声を出した。
「お前…サラダボウルは?」
「ぁ…えっと…」
「忘れたのか?」
「…」
「ぷっ…馬鹿だなあ!」
「なっ…酷い!」
腹を抱えて笑い出した畑野をジト目でにらむと、畑野は少し気づかうように言った。
「オレのサラダボウル、貸すけど?」
「は?いっ、いいよ!あんたが痛いじゃん!」
「別に痛くねぇよ」
「ウソだよ、絶対痛いもん」
貸す貸さないの応酬に、畑野が先に折れた。
「はぁ…じゃあこうしよう。」
「?」
「一緒に入れ。」
「は?」
今度は私が素っ頓狂な声を上げてしまった。
だって、それって…
「さすがに、女がサラダボウル無くて困ってるの見捨てて帰るほどオレも非情じゃねぇよ。」
その言葉に、私の胸が高鳴るのを感じた。
それと同時に、素直になれない自分が溶けて、素直な気持ちになっていくのを感じた。
「じゃ、じゃあ、一緒に入る。」
「おう。」
畑野がにっと笑って、鞄からサラダボウルを出した。
「あ、あの、ねっ!」
「何だよ?」
「私っ、『お前』じゃないよ!」
「…へ?」
「私、『お前』じゃ無くて、平賀だよ!」
「…っ、ぷくく!分かったよ、分かった。平賀な。了解。」
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