沙弥

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沙弥が死んだ。交通事故だった。 それが今、こうして僕が部屋に閉じ籠っている最大の理由だった。 二週間前のあの日、僕のなければならないものが消滅したと悟ったあの日から、僕は閉じ籠った。 自分の殻、つまりは部屋に。 学校へ行かなくなった僕を友人や先生が訪ねてくる。 「早く学校、来いよ」 皆口々にそういった。 僕は曖昧に返事をしながら、実際のところ吐き気と目眩、そしてより明確に感じる殺気を堪えるのに必死だった。 僕の、僕と沙弥の思い出に踏み込むんじゃない。 そこは、お前の薄汚い足が乗っているそこは沙弥がいるべきところなんだ。 出ていけ。 ここから出ていけ。 僕から出ていけ。 沙弥から出ていけ。 ぼくたちから、出ていけ。 出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ。 三十秒以上、僕たちのなかに他の奴等が入ってくるのが許せなかった。 初めてを初めての沙弥と交わしたベッドに横たわり、天井を見上げる。 思わず自嘲的な笑みが浮かぶ。 死して尚愛す、って。 こんなに虚しいものなのか。 抱きつきたい。口付けたい。撫でたい。含みたい。弄りたい。繋がりたい。そのいずれも、もう沙弥は許してくれない。 あーあ。分かってるよ。 「こんなことしたところで、沙弥は帰っては来ないのでしたとさ・・・・・」 言ってはいけないことを言ってしまった罰として、指を反対に折り曲げてから睡眠薬を飲み込めるだけ口に流し込み、寝た。
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