沙弥

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死神、と名乗る男は懐から一枚の紙切れを取り出した。 「それはなんだ」 「契約書です」 男がそれを地面に置くと、それは自らとことこと僕の足元まで歩いて来た。 「拾ってあげて下さい」 言われた通り紙を拾い上げると、勢いが良すぎたせいか、紙が曲がってしまう。 途端、世にもおぞましい鳴き声でその紙が啼いた。 「あら、容赦がありませんね。生きた紙を扱う時は女性の純潔の証に触れるくらい優しく、敬意を払うべきですよ」 「あれは破るためにあるものだ。敬うことにさしたる意味はない」 「現実的なんですね。沙弥様はもう少しロマンチストな方だったように感じましたが・・・・・」 「・・・・・何故、それを?」 「今のあなたの目は死を取り扱う私ですら殺してしまいそうですね。ミストルティン、神殺しにでも就かれてみては?」 「お前らの生き死になんてどうでもいい。死にたきゃ死ね。俺にこれ以上ストレスを与えるつもりなら死ね」 「そんなおつもりは全然・・・・・」 不意に、死神がシニカルな笑みを浮かべる。 「むしろ、私がこれからあなたに与えようとしているのは・・・・・」 死神が、僕の手元の紙を指差す。 「・・・・・チャンスでございます」 内容に、一通り目を通す。 「・・・・・これは本当に有効なんだな?」 「ええ。良くも悪くも全て事実でございます」 「分かった。いつまでにやれば良い?」 「あなたの気の向いたときに。条件を満たしたとき、私はいつでもあなたのそばに現れる・・・・・」 それだけ言い残して、文字通り死神は姿を消した。 僕は立ち上がり、久々に窓を開く。 幸いなことに、僕の部屋は一階だ。窓からの出入りはさして難しくない。 僕は久々に使う獲物、刃渡り三十センチ程のナイフを取り出し、部屋を後にする。 あの契約書には、沙弥を生き返らせる方法が書いてあった。 簡単なことだった。 遺族を、皆殺しにすること。 沙弥は一人っ子。 両親しかいない。 だから、僕に必要な白星は、二つ。
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