非日常な一日

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「ちょっ…ま……!」 言いかけた言葉を慌てて飲み込む。 「どしたの?」 きょとんとした顔でアヤが俺を見る。 「い、いや、何でもないよ」 「変なシゲさん」 アヤは小首を傾げてそう言うと、再びキューを構えた。俺は壁に貼ってある店の案内やら何やらを見るフリをして、なるべくアヤのほうを見ないようにした。 なぜなら…… 横目でチラリと見た視線の先には、アヤの白い胸元。前屈みになっているせいで、キャミソールの奥の谷間が見える。淡いグリーンのブラまで見えている。 …アヤ、気付いてないのか…? 「えいっ!」という掛け声とともにキューに弾き出された白いボールが一直線に転がり、一番手前の玉に当たってカーンと耳に痛い音が響いた。 「ぷぷっ…アヤ、それ…」 「もうっ、笑わないでよぉっ!苦手だって言ったでしょ!」 俺は思わず吹き出していた。派手な音の割には的玉はそれほど広がっていなかったから。 「力ねぇなぁ、アヤ」 そんな非力なところも女のコらしくて可愛いけどな…と心の中だけでつぶやいてみる。 「じゃあシゲさんやって見せてよ」 唇を可愛く突き出した不満そうな顔でアヤが言う。 「ああ、いいよ。ちゃんと見てろよ?」 俺はルール違反ではあるけれど的玉を再び並べ直した。 キューを手に取り、狙いを定め、一気に手玉を突く。 カーン!という甲高い音とともに的玉が大きく散らばる。そのうちの1つはストンとポケットに落ちた。 「シゲさん、すごいっ!」 驚いて目を丸くするアヤに「当たり前だよ」という顔をして見せながら、内心ホッとしていたことは言うまでもない。
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