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「坂田先生!」
申し訳ない、お約束である。
だが、俺が今回本当に頭が上がらないのは、ダントツで坂田氏だ。
あのひと騒動で俺達がクビにならなくて済んだのは案の定、坂田氏の健闘があったからだ。
俺があの場を去った後、実に8人ものファントムロードを叩き潰した坂田氏は、責任をとって学校を辞めた。
岡部のバカには『自分がプライベートで作った不祥事だ』と言ったらしい。
そのせいで、彼は現在就職活動中。
髪型も七三から普通の髪型に戻していた。
「次の就職先は見つかった?」
「まだだが、私立の世界史教員に若干空きができたそうだ。いまから面接だ。」
カラカラと笑う坂田氏の姿に俺は頭を下げることも許してくれなかった。
湿っぽいのは嫌なのだそうだ。
ビィィィ!!!!
突然公園脇からクラクションが鳴った。見ると真っ白なセダンの助手席の窓から女性が手を振っていた。
ここから見てもわかるほど綺麗だった。
「ヤベ!はい、今行くから!」
学校から持ってきてくれた俺の自転車を投げ捨てるように俺に渡すと、坂田氏は飛ぶように車に駆け寄っていって、平謝りのすえ車に乗り込んで見えなくなった。
何処と無くやるせない気分になったのは俺だけだろうか…。
俺も嫁には気を付けねば…。
天を仰いで視界に入った仏陀の遊具を眺めた。
わずか一ヶ月で色んなことがあったものだと、この遊具と共感できるきがする。
夏本番の心地よい風がYシャツの間を駆け抜けて空に舞い上がった。
それと共に、俺の肩をとある少女の細い手が優しく叩く。
かつてむしり取るほどのちからで俺の髪(正確にはカツラ)を掴んだあの無作法な手と同じだ。
白く、細く美しく
…愛しく、優しい手だ。
よし、仕切り直しだ。
俺は染め直した真っ黒な髪で、彼女とむきあった。
『おはよう!トラチャン』
ああ、
おはよう
依紅。」
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