月光の語り部

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更に時は過ぎて7月の中旬。 俺は改めて登校の日を迎えた。 …とはいっても夏期休暇 まではもう1週間もないらしく、 俺は病欠扱いで受けていなかった期末テストとやらを次の日に控える嵌めになっている。 当然その期間、学習などしてるはずもなく、怪我が治っても俺の目の前には問題が山積しているのだ。 久しぶりの制服に袖を通して食卓につく。目の前にはにこやかに朝食の準備を整え、手際よく配膳をする親父(婿養子)の姿があった。 平に格下げにあった親父だったが、位が変わったところで、腕っぷしとその人格が変わるわけもなく、相変わらず若い衆の信頼は厚い。 黙々とアジの開きを口に運んでいると、 そこへ完璧な化粧を整えた母親の登場。 ただ静かに合掌し、御御御付に口をつける。 そしてその姿を親父は心配そうに伺っている。 「あの母さん…一応母さんが嫁だよな」 「そんな前時代的な考えではダメよ、虎彦。今は男女平等の時代なのよ。」 今もこれから先もこの状況を男女平等とは言わねぇよ。 言ってたまるか。 「あなたもお味噌汁くらい作れなきゃ。じゃなきゃ嫁に出せやしないわ。」 俺は嫁にはならないし、性転換手術を受ける予定もない。 「虎、お前時間は大丈夫なのか。」 ひよこのエプロンをした40半ばのパンチのオッサン(婿養子)が心配そうに問いかける。 「そうだな、行ってくるよ。」 そういって、この異様な光景にいってらっしゃいと見送られ家を出た。 時刻は7:12。学校には余裕で到着予定。 しかしながら、俺にはどうしても寄るべき所があった。 閑静な住宅街のど真ん中にたたずむ巨大なガウダマシッダールタを模した大仏の銅像をもしたプラスチック製の滑り台のある公園がある。 この高校復学の初日に、そこである人と待ち合わせをしているのだ。 2週間以上も会っていなかっただろうか。 久しぶりの再会に、正直どのような顔をしたものかとずっと思案していたのだ。 その人は、既に到着していて、早速俺の姿を見つけて、大きく両手をふっている。 元気であることに正直安心した。 一番心配かけたであろう。 俺は駆け足でその人の元に駆け寄るのだった。
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