嵐の前の静けさ

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「てめぇ何しくさっとんじゃボケェ!!!!」 「己の失敗なら、てめえで落とし前つけろやこらぁ!!!」 「けじめっちゅうもんを分からせたろうやないかい!!!」 こんな怒号が鳴り響くのが俺こと、辰羅川虎彦(タツラガワ トラヒコ)の日常である。 見られたらワッカをかけられる(逮捕される)ような代物はインテリアに近い形で身近にあるし、 家を尋ねてた人間が、裏から車の荷台に載って出ていくところは年の節目に起きるイベントのように見てきた。 拳や平手で肉体がヘシャゲル音なんてものは最早子守唄だ。 15歳になった今では、これらのことは晩御飯の食卓にカレーが並ぶくらい定期的な事なのだ。 え、そこの白い粉? あぁ、小麦粉小麦粉。 というのは、俺の親父(婿養子)が都内有数の暴力団「玄武会」の副組長もしていることに由来しており、 同時にそれは俺が暴力団組長の孫に当たる立場であることも意味している。 ん? さっき拳銃がたくさんの並んでいるのを見た? うち、大きなお友達にチャ……ゴホン、モデルガン売る仕事もしてるから。 こういう場合のヤクザの息子というのは、親に反して家庭的で優しい人間、というのが通説らしいが(どこの通説だ)、 俺は親の影響を120%引き継いでいると言ってもいい。 目付きは悪いし、短気で喧嘩早い。 子分を引き連れて肩を揺らして歩くし、親が何をしているかも熟知している。 そんな俺が唯一親に似なかったところがある。 それは趣味だ。 俺は世に言うネトゲオタクである。 一日の約3分の1は別人格として、仮想空間に赴いている。 決して親は良い顔をしない。 ネトゲをやっているだけで、大人は俺達を「ニート予備軍」と呼ぶ。 当然それは、ネトゲにはまりすぎて、他の行動意欲が無くなってしまったためで、ネトゲ自体に欠陥があるわけではないのだが、親というのは己の過失を他のものに押し付ける傾向があるわけだ。 事実、ネットゲーマーにはニート及び、根本的人間性を欠いたものもいる(多くはないが)。 その日も俺は親の目を盗み、深夜に「Monsoon Hunter」をやっていた時に事件は始まったのだ。
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