嵐の前の静けさ

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俺がそれ以上の追撃を加えなかったため、親父(婿養子)は体勢を持ち直し、とりあえず消されていた蛍光灯のスイッチに手をかけると、眼光を鋭くして言った。 「虎彦、お前いくつになった」 「今年で16だけど。何だよ急に」 そうか、と短く言葉を区切ると、その場にドカッと腰を下ろす。 急にあらたまる父親(婿養子)に何か嫌な予感がした。 こういう時の親父の話すことといえば、ろくなことはない。 このあいだ聞かされたのは、母さんとの馴れ初めから、 俺の遺伝子の半分がどのような経緯で相方をみつけたかの話。 ……15を越えた息子にする話ではない。 (そもそも他人にする話ではない) さすがに酒をのみながら実の息子に夫婦の愛の営みについて聞かされるのは辛かった。 どんな嫌がらせだよ。 知りたくなかったよ。 母さんが部屋のタンスに「セー○ー戦士」のコスプレがフルセット(ムーンからギャラクティカまで)で入ってて、それをたまに着てるなんてな! だが、今回の親父(婿養子)には酒の気配は無く、いたって真面目な顔で落ち着き払っていた。 今まで経験したことの無い状況に、思わず俺は片手間でゲームの回線を切った。 普通、オンラインゲームでプレイ中に回線を切る事は、マナー違反に当たり、大変よろしくない。 ヘタをすれば、そのコミュニティでの信頼を失い、二度とクエストに誘ってもらえず、やむ無くユーザーネームの変更を余儀なくされてしまうことすらあるくらいだ。 しかし、目の前で座り込んだ厳ついリーゼントの男の姿を前に、PCから流れるあまりに電子的な音楽は、BGMとしてはふさわしくないと感じたのである。 パソコンの電源も落とし、沈黙に伏した部屋の中で、親父は軽く息を吐いて、言ったのだ。 「高校に行け」
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