嵐の前の静けさ

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「だったら義務教育が終わった今の段階で、イロイロ実地で学んだ方がいいと思うんだよ。 学力が必要だっていうなら俺は一人でも勉強するし、そっちの方が組の為にも……」 「……うるせぇ」 低く唸るような親父の声が、突如首筋をうすら寒く撫でた。 俺の気管支が痙攣し思わず息が止まった。 「……お前には、高校に行って貰わないと困るんだよ!」 さっきの恫喝とは色合いの違う言葉だった。 どうしたのだろう。高校生へ行けと言ったときと全く同じ緊張感。 いつにないピンと糸を張ったような言葉だった。 いったい今の親父に何が起こっていると…… ……ん、「困る」? ふと見直すと、そこにはいつもの親父(婿養子)の姿があった。 それは、先輩にパシリを頼まれた後輩。 廊下に立つよう命じられたのび太くんのような姿だった。 ……なんだよ。そういうことかよ。 俺は天井を仰ぎながらため息をついた。 「また母さんか…」 親父(婿養子)の背中は電気が走ったようにビクンとはねた。 図星だったようだ。 「…じゃあ拒否権ねぇじゃねぇか」 その瞬間。俺が脳内に巡らせていた『絶対高校なんかに行かないぞロジック』は崩壊した。 諦めるより他なかった。 悪いが俺も母さんは恐い。 いつか反抗期の入口に入ろうとしていた時期、 思わず「クソババァ」と言ったことで、44マグナム「コルト アナコンダ」で乱射された日には、本気で死んだと思ったね。 だって歴代組長達が川辺で四人将棋してるのが見えたもん。 「麻雀やれよ! 四人将棋て!!!」 とツッコんだことまでも覚えている。 3人で初代を嵌めていた。 うん。俺があそこに加わらずに済んだのは、親父とじいちゃんが身を呈して止めてくれたおかげだ。 その日以来、俺の中に反抗期というものが来なくなった事は言うまでもないが、 とにかく母の機嫌を損ねること、母の命令に背くことは即ち死を意味するのである。 ならばさっさと言えばいいものを、親父は何とか自分で言いくるめるつもりだったのか、母の名前は一言も出さなかった。 ……自分のプライドの為に大事な一人息子を殺すつもりなのだろうか。
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