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彼はファーストキスの相手だった。
あれは17歳の時で彼は一学年上の先輩だった。
季節は夏の前で梅雨の合間の晴れた夜の海岸で……。
「河合先輩」と、私はハンドルを握る横顔に声をかけた。
河合先輩は私の家の近所に住んでいた。
背が高くてしゅっとした体形にサラサラの髪。人懐こい笑顔で哲学的な話をする。
スポーツもそつなくこなし勉強もよく出来たし、何しろ女子に優しかったから相当モテていた。
特定の彼女は作らない主義らしい河合先輩に対して、河合先輩好き女子は、なんとか彼のお眼鏡にかなおうと自意識丸出しでアピールしていた。
例えば調理実習の後は、彼に試食を願う女子が列を成したし、バレンタインデーや誕生日には道端で待ち伏せする女子が何人もいた。
それでも彼はやっぱり誰とも付き合ったりしなかったから、「もしかしたら男が好きなんじゃない?」なんて噂まで飛び出して、いわゆる腐女子もきゃあきゃあと彼の虜になった。
私が好きだったのは河合先輩の親友、馬場先輩。
少し厚みのある唇に冷めた瞳で年の割に落ち着いている人だった。
それでも笑った時の無邪気な表情とふとした時に見せる寂しげな、物憂げな顔のギャップに私は夢中だった。
二人が並ぶととても絵になっていた。
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