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父は数秒固まった後、ソファーの後ろに頭をブランとさせた。
そして大きな溜め息をついて「そうか」と小さく呟いた。
喉と顎しか見えず、顔が見えない。
一体どんな表情をしているのだろうか。
「そうか」の意味が気になってしょうがなかった
「本気なのか」
「えっ」
父はあの状態のままだ。
おかしな体勢のせいか、声が掠れていた。
けど、俺には少し涙声のように聞こえた気がした。
再び俯いている母を一瞥し、はっきりと言った。
「本気だよ」
直ぐに返事はなかった。
父は二回目の溜め息をついて、両手で顔を覆った。
握り締めている拳が痛い。
緊張のせいで汗びっしょりだ。
俺は固唾を飲んで、父の言葉を待っていた。
俺は期待していた。
もしかしたら、父は理解してくれるんじゃないかと。
「分かった」と許してくれるんじゃないかと。
母とはまるで違った反応に、期待をせずにはいられなかった。
そして数分後。
父は頭を起こし、ゆっくりと元の体勢に戻した。
父と目が合う。
父は……無表情だった。
「考えさせてくれ」
「っ!……あなた!」
「未だに整理が出来ない。よく考えさせてくれ。返事はもうちょっと待ってくれないか」
父は自室に戻った。
母も自室へと向かった。
俺は2人の後ろ姿を見送った。
俺は、悲しくもありショックでもあり、けど絶望的ではない、複雑な心境だった。
否定された訳ではない。
だけど、あの反応は明らかに「否定」が含まれいる。
考えさせてくれ、がその証拠。
父の答えは、いつ返ってくるのか。
淡い期待を持ちながら、俺も自室に戻った。
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