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異様な存在感を放つ「それ」。
たった一枚の紙切れの「それ」が何故、ここにあるのか。
いや、何故、じゃない。
分かっている。
これは俺が原因なのだ。
両親をここまで追い詰めたのは明らかに俺。
二人が揉めただろうことは、簡単に想像出来た。
その結果が、これだ。
父に気付かれないよう、それを手に取った。
母だけが書いていて、父の記入欄は無記入だった。
後で書くのか、迷っているのか、それとも。
「和也?」
ビクッと肩が揺れる。
声の主は…父、だった。
「い、いつから起きて…」
「ついさっきだよ」
父は大きな欠伸をすると、いっぱいに手を広げ、伸びをした。
変な音がしたのは気にしないことにしておく。
父が座っているのに、俺は立ったまま。
あぁ、なんか落ち着かない。
父の視線が下へと向けられる。
まだ眠いのかと思ったが違った。
ハッと、俺は離婚届を握り締めていることに気付いた。
父は「見られたか」と苦笑しながら小さく言った。
そして。
「母さんにね、昨日の夜に渡されたんだ」
「…そう」
「何も言わずにただ渡して来たからビックリしたぞ」
「父さん」
「無表情だから余計に怖い」
「父さん…っ!」
「……なんだ」
「…離婚……するの?」
知りたいようで知りたくない。
それぞれの葛藤。
俺はただただ、父の言葉を待った。
父は暫く無言だった。
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