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寂れた住宅街の歩道を、1人で歩く。
先程急ににわか雨がふったせいか、変に蒸し暑い。
雨降った時の独特の匂いがする……足が重い。
あともう少しで着く筈だ。
9月1日。
夏が過ぎ、徐々に涼しくなり始めていた。
「あら、あっくんじゃない!」
「酒屋のおばさん、お久しぶりです」
大きく酒屋と書いた看板の店を通り過ぎようとした時、店主の公子おばさんから話し掛けられた。
赤いエプロンに赤いサンダル。
前と全然変わっていない。
「久しぶりね~!確か来年は大学卒業だったわよね」
「はい、四年の大学生活とも来年でおさらばですよ」
俺が笑っていうと、おばさんも一緒に笑った。
そして、俺の頭から足先まで見て不思議そうな顔をした。
「山にでも行くの?まるで登山家みたいな格好して」
そう言われてハッとした。
本来の目的を忘れかけていた。
そうだ。
今日は……。
「あぁはい。今日はあいつの…竜也の命日ですから」
途端におばさんの顔が曇った。
比べて俺は至って普通だった。
こんな反応は慣れている。
おばさんと同じように、皆良い表情を浮かべることはない。
それは当たり前だ。
「命日」なんて、良い響きなんで一切ないのだから。
だが、もう一つ理由がある。
それは、
「毎年お墓参りなんて、あっくんは……本当に一途ね」
俺と竜也が恋仲だったからだ。
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