言い訳と云う名の勇気

2/2
前へ
/27ページ
次へ
声がする。 俺を呼ぶ声が。 もうこのやり取りは、俺達にとってお馴染みとなった。 こいつは悩んだ時、決まって俺の所にやって来る。 「別れるかもしれない」 「は?」 思わず口が開いた。 何を言ってるんだこいつは。 俺は食べかけのパンにかじりつき、食事を再開した。 俺達はいつものように、屋上で昼飯を食べていた。 屋上には俺達しかいない。 立ち入り禁止だから、誰もいないのは当たり前なんだけども。 隣には親友の隆樹。 俺はこいつの相談役でもある。 主に恋愛の。 「今度は何したんだよ?」 「なっ…!失礼だな健!毎回俺が悪いみたいじゃねぇか!」 「みたいじゃくて、そうなんだろうが」 そう、こいつには彼女がいる。 交際半年。 隆樹は倦怠期に悩んでいた。 最近それで悩んでいることは知っていたが、うまくいってないのにはもう一つ理由がある。 「まーた浮気か」 「浮気じゃねぇよ。ただ一緒にご飯食べに行っただけだ」 「へぇ…他の女と2人きりで夜遅くに食事ですか?」 「…う」 こいつは浮気癖が酷い。 彼女のことはちゃんと好きなのに、なんで浮気をするのか。 彼女はこいつ一筋なのに。 浮気なんで一度も無いのに。 ああ…彼女が可哀想。 俺は大きな溜め息をつかきながら、缶コーヒーを飲み干した。 「なんこう、刺激が足りないんだよなぁ今の彼女」 「刺激?」 「こうビリッとしたものが無いっていうかさぁ。いやめっちゃ可愛いんだけどな!」 隆樹は何故か大笑いして、寝転がった。 そして、さっき食べたおにぎりを包んでいたラップの玉を、俺に投げつけてきた。 「うわっ、投げんなよ!きたねぇな!」 「綺麗と言え!」 また隆樹は大笑いした。 変な奴。 本当に変な奴だ。 けど、そんなこいつが好きな俺も変な奴なんだろう。 何故俺は浮気が平気なのか。 何故こいつを叱らないのか。 何故俺はこいつが好きなのか。 何故、彼女がいるのに諦めきれないのか。 「ん?どうした健」 「なぁ、お前、刺激が足りないって言ったよな」 「言ったけど?」 俺は変なのだ。 だからこれから俺が言うことはしょうがないこと。 変なこと言ったって、変なのだからしょうがない。 このやけに早い心臓の音も、俺が変だからに違いない。 そんな無茶苦茶な理由を立てて自分に言い聞かせた。 俺の言葉でどんなことになろうとも、動じてたまるか。 「俺と付き合ってみるか?」 *end
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加