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「慰めてくれよ」
この言葉を言われた時の俺は、さぞかし滑稽な表情をしていたと思う。
いや、だって、思いもしなかったのだ本当に。
好きな彼からこんなことを言われるなんて。
「だから、慰めてくれ」
再び言われた時は、俺は肩を落としていた。
どうやら俺が捉えていた「慰めて」の意味と、こいつの意味とでは大分違うらしかった。
彼はただ普通に「どんまい」とか「こんな時もあるさ」という意味で慰めて欲しかったらしい。
てっきり性的な意味かと思ってしまった。
卑猥なことを考えていた自分がなんだが恥ずかしい。
いや、とてつもなく恥ずかしい。
「で、なんで振られたんだ?」
そう聞くと、彼は待ってましたと言わんばかりの勢いで「それがさぁ!」と、思い切り机を叩いた。
周りの皆が不思議そうに、興味深そうにこちらを見る。
俺はそれを一瞥して、パックのジュースを飲んだ。
「好きな奴ができたんだってよ!」
「声でかい、ここ教室」
「いいだろ別に授業中でもないんだからよ!休み時間ぐらい自由にさせろ!」
彼は机に伏せて、うぅと唸り出した。
まるで泣いているみたいだった。
突然静かになって、違和感を感じた俺は、彼に出来るだけ優しく話し掛けた。
「うん、まぁ、あれだ。お前はたまたま運が悪かったんだって。次また新しい奴見つければいいだろ?な?」
「…あぁ」
か弱い返事は涙声だった。
彼は本気で落ち込んでいるようで、静かに泣いていた。
俺は彼の頭をぽんと、叩いた。
黒い感情が、渦巻く。
俺はこんな時“優しい友人”の“振り”をする。
良い友人を演じて、彼に気に入られようとする。
そして、空いた場所に自分が入れないかと、必死に考えを巡らせている。
漬け込めと囁く悪魔がいる。
しかし、「彼女いた」という彼の歴史から見て、「彼氏を作る」ということにはなり得ない。
そう諦めてもいた。
(彼女なんかつくるの辞めちまえよ)
そんな俺の気持ちも知りもせず、彼は俺に微笑むのだ。
「ありがとよ」
チクリと痛んだのは気のせい。
少し泣きそうになったのも、きっと気のせい。
気のせいだ。
チャイムが鳴り、席に戻る彼の背中を見送る。
椅子に大きくもたれかかると、俺は溜め息をついた。
end
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