言えない二文字、伝えたい五文字

2/12
前へ
/27ページ
次へ
「俺、結婚するんだ」 受話器ごしから聞こえる、懐かしい和也の声。 何ヶ月振りだろうか、この声を聞くのは。 いつもなら、電話が掛かってくると嬉しくてしょうがないのに、この時は直ぐに切ってしまいたかった。 手が、震えた。 あの電話から3日。 俺達は今日、いつもの喫茶店で夜8時に会う約束をした。 高校時代はよく帰り道に寄ったものだ。 「いつもの店」とだけで、分かるようになった。 いつの間にか座る場所もお決まりになったりして、その席が空いてないと何故かガッカリした。 理由はよく分からないが。 俺が店内に入ると、既に和也は席に座って待っていた。 いつもの席だ。 和也は俺に気付いたのか、笑顔で手を振った。 「悪いな、急に呼び出して」 「別にいいよ」 俺は席に座り、ホットコーヒーを注文した。 ウェイトレスが去ったのを確認して、俺から話し掛けた。 「結婚するんだってな。」 「ああ、半年後にな。招待状もみんなに送るつもりだ。祥にも送るぞ」 「俺に送るんだ?元恋人が来るって彼女が知ったら、怒るんじゃねぇの?」 そう、俺達は恋人だった。 禁断の恋ってやつだ。 高校2年から3年までの一年間付き合っていた。友達にも親にも内緒。 ひっそり…ひっそりとバレないように付き合っていた。 が、ある日親にバレで猛反対された。 親父に殴られ、母は号泣。 挙げ句の果てに、和也の両親も家に来て口論になる始末。 俺達は別れた。 家族の崩壊を恐れたのだ。 離婚の危機となれば、もうこうするしかなかった。 こうすることしか、俺達には分からなかった。 別れてからは、気まずかった。 一時的に避けたりもしたが、いつの間にか普通に接することが出来るようになった。 友達に戻ったのだ。 大学も同じ所に入り、俺達はいつも一緒にいた。 勿論、親友として。 大学を出て3年。 俺達は別々の道を歩んでいる。 今、俺に彼女はいない。 ずっとフリー。 異性と一夜限りの付き合いは何度かあったが、それだけ。 忘れられなかった。 和也が今でも好きなのだ。 →
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加