邂逅

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また今朝も僕の前には朝食が出されない。 Breakfastどころじゃない、Breakだ。 破壊がどうかしたかって? そんなの僕だって知らない。 「あら蜃気郎いつの間にいたの?もういるならいるって言ってよ」 敬愛すべき母君がそう言ってようやく目の前にトーストの皿を置いてくれたのだが、知っていたかい母さん。 僕は誰よりも真っ先に食卓へついていたんだぜ。ヘッヘッへ。ヘルマン=ヘッセ。 無言で焦げかけのトーストをかじり(不意に胸はときめいたりしないし、僕は反マーマレード派である)、顔のついた目覚まし時計のキャラがうごめく朝の情報番組をぼんやり眺めた。 文字盤も針も無い奴はもはや時計では無いのでは、なんて事は言わない。 彼は被害者である。 だって画面左上に時刻が表示されているから、彼は唯一の仕事を奪われ、挙句マスコット的な扱いをされる他に無くなってしまったのだ。多分。 かくいう僕も、良く分からない存在の一人である。 蜃気郎なんて消えそうな名前をつけられ、しかもどういう訳だか影が薄い為、家庭内ですら僕の所在はいつもそこにいながらにして不明なのである。 でもこればかりは努力しても仕方ない。 性質と言うか、体質だから。 そして明らかに遅刻確定な時刻を目の当たりにして、今日も僕はいつもの様に、のんびり家を出るのだ。
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