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僕と違ってこんなに目立つ存在であるのに、どういう訳か行き交う生徒の誰一人として、彼を見る者はいない。
「君は酷く存在感の無い人間だ」
ぶしつけに言われ、僕はムッとするが、長官男はお構い無しに続けた。
「だがそれは私にして見れば有益な能力と言える」
長官男が声のトーンを落として、僕の耳元で囁いた。
「君の才能を買いたい」
「はぐ!!?」
嫌ァア!そのBLゲームの声優みたいな声で囁くのは止めてェエ!
カクッと腰砕けになって座りこむ僕を見下ろして、長官男は聞き捨てならない言葉を口にした。
「私なら君を普通の存在感にする事も可能だ」
「…そんな馬鹿な」
生まれてこの方スルーされ続けて来たこの僕を、人並みの存在感にするだって?
胡散臭いにも程がある。
「何故なら今、私がこうして君と話していて誰の目にも触れないのはその技術に他ならない」
「!!」
すれ違う生徒。
絡まない視線。
僕は、違和感の塊が服着て歩いてる様な目の前の男を見上げた。
この男の目に、僕の顔はどう映っていただろう。
希望、なんてものでも浮かんでいたのだろうか。
分かりはしないが、長官男は我が意を得たと言わんばかりの狡猾そうな笑みを浮かべた。
僕の心情の変化を、読み取ったのだ。
(恐ろしい男だ)
そんな恐ろしい男の伸ばした手を取る僕は、恐ろしい馬鹿なのだろうか。
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