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「シン、何処行くんだ?」
昇降口から出て行こうとする僕を見かけた日野が驚いた声で呼びかけて来た。
「日野、今日は帰る。先生には言わなくていいよ、どうせ気付かない」
「はぁ?帰るってお前…」
怪訝な顔をする日野は、僕の横の男を見て不信そうに眉を潜めた。
「…そいつ」
相変わらず僕を見つけられるだけでなく、この男の存在にも気付いたのか。
日野のこれは最早特殊能力では無いだろうか。
どうせスカウト?するなら僕より日野が向いてるんじゃなかろうかそとろうか?
「シン、そいつ危ないよ」
あ、知ってる知ってる。
思わず僕が頷くと、日野が珍しく険しい顔でやって来て、僕の腕を引いた。
「分かってるなら止めろよ、それでもサボるなら俺付き合うし」
「日野」
真剣に心配してくれているのだろう日野に、堪えられずに僕は目を逸らした。
…友達、じゃ無いんだから、そんな風に心配しなくていいのに。
「今彼がどうするかを決めるのは君ではない」
「!」
日野が長官男を睨み上げる。
「ましてや彼自身でも無い。…私だ」
え、何この自己中な大人。
だが取り敢えず今は日野をなんとかしなければ。
「ひ、日野。大丈夫だから、その」
「お前黙ってろ、こいつは話の分かる奴なんかじゃない」
噛み付く様な勢いの日野に気圧されそうになるが、僕はこの場を収める為に、今までの人生で言った覚えの無い憧れの台詞をしぶしぶ使う事にした。
「日野、ぼ、僕を信じて…」
日野が目を丸くして僕を見る。
うう…いたたまれない…
「……分かった」
意外にすんなり引き下がってくれた日野に安堵し、僕は何度も日野に向かって手を合わせた。
…あんな台詞、一生使う事無いと思ってたのに。
こんなタイミングで使ってしまった事に、僕は少し寂しさを覚えた。
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