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夜空に輝く美しい満月も、降り注ぐ星屑のきらめきも。彼にはなんら感銘を与えなかった。
――――追われている!
ただ、その事実だけが彼を突き動かす。息は乱れ、脇腹には血を滲ませ、「満身創痍」といった言葉がまったく似合う。
まだ10代半ば程に見えるその少年は、一気に夜の裏路地を駈ける。迫り来る死の恐怖から逃れるように。
――――くそっ!完全に計画外だ!なぜ…………なぜこんなことに!
心の中で毒づきながら、しかし縦横無尽に走る。そして少し広い広場のような場所に辿り着き、一息ついて後ろを振り替える。
――――もう、大丈夫か…………?
そう思った直後。
「余裕だな。貴様には一息つくほどの余裕などないはすだが?」
背後から、不意に冷たい声がした。
咄嗟に振り返り、腕をかざす。しかし…………。
「焦りか?恐れか?何が貴様を突き動かす?…………まだ気が付かないか?所詮、その程度では私には叶わないという事実に」
またしても、背後からする声。
そして…………僅かに風を切る音がしたかと思うと、唐突に少年の左腕が吹き飛んだ。
「うっ…………あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
あまりの激痛に、思わず少年は崩れ落ちた。見る見るうちに血溜まりが少年の周囲にできていく。
なおも、声は続く。
「知りすぎたな。消される運命、受け入れろ」
氷のように冷たい声が、死を告げる。
「い、や…………助け…………っ!」
その声をかき消すように。風を切る音と、少年が倒れる音が広場に響いた。
惨劇を引き起こした人物は悠然と去っていき……………ただ、死体だけが残される。
――――星屑の降り注ぐ街。静かに、物語は始まる。
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