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スグルは力が抜け立っているのがやっとだった。魚星人が身体を思いっきりスグルに叩きつける。
「スグル!!」
シンが叫ぶ。魚星人の巨体に押しつぶされてスグルの身体は見えなくなってしまう。
魚星人が低い唸り声を上げながら身体を持ち上げる。砂埃がまうがスグルの人影は見えない。
ユウが絶叫する。シンも震えが止まらなかった。次は自分達だ…
魚星人が絶叫するユウの方を見る。シンもユウも一瞬にして動けなくなってしまった。なるほど、スグルが動けなくなったのも訳がわかる。こんな威圧感をシンは体験したことがなかった。
「死ぬ…」
「うおおおおおおおおッッッ!!!」
魚星人が体をひねり後ろを見ようとした。骨格的に無理な動作ではあったがシンにはそう見えた。
シンも声の方向を見た。
「マジかよ…あんな…」
シンは自分が見ている光景があまりにも不可能な事に思えてしまった。
ハセジュンが魚星人の巨大な尻尾を抱えて腰を下げ叫んでいる。魚星人からしたら虫のような大きさのハセジュンが魚星人の尻尾を力いっぱい引っ張っている。
一見ハセジュンの行為は全く意味が無いようにみえる。物理的にあんな巨体を1人の人間が引っ張ることなど不可能だ。
だが、ハセジュンは物理的な不可能を超越していた。魚星人の巨体はハセジュンにどんどん引っ張られていく。魚星人がジタバタと暴れるがハセジュンはお構いなしだ。
よく見るとハセジュンのスーツに筋のようなものがだんだんと盛り上がってくる。まるで筋肉のように。
「あれマジかよ…」
シンは口が緩む。こんな状況なのにシンは少し気持ちが軽くなった。
ハセジュンがかなり後ろに魚星人を引きずった。先程魚星人が身体を叩きつけた場所にスグルが埋まっている。スグルは少しも動かない。軽くなったはずのシンの心は再びどん底まで叩き落とされた。
「あッ!!」
ユウの叫び声でシンは上を見る。ハセジュンが魚星人の尻尾に振り上げられて空中を舞っている。
「ハセジュン!!」
シンが叫ぶ。ハセジュンはシンを一瞬見る。
シンは理解した。ハセジュンには何か考えがある。あの自信たっぷりの目が物語っていた。
ハセジュンは空中で身体をひねり落ちていく軌道を少しばかり変えた。魚星人を引きずったのは闇雲な行為では無い。ハセジュンの中でその時からシナリオは出来上がっていた。
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