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「聞いているのか。俺をここから」
オヤジは無邪気な笑顔で俺に手を振った。聞えていないのである。
俺は、戦慄した。さぁぁぁと音を立てて顔から血の気が引いていく。
この距離から蚊の鳴くような声が地上に届くわけがない。おそらくオヤジには俺が口をぱくぱく動かしてることぐらいしか確認できないであろう。
だからといって今の俺にはこれが精一杯だ。やばい。
「お次は、例のやつをいくぞ」ラッパのかたちに重ねた両の手を口に当て、オヤジはバカでかい声でそう言った。
「それ」俺に向かって伸ばした腕をぐるんと回す。
その腕の動きに合わせて、俺の体もぐるんと大回転。
「あ、それそれ」オヤジは小躍りしながら腕を振り回しつづける。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」俺はまばたきもせずに空中をマッハの速さで旋回した。
あまりの恐怖に体中の穴という穴がすべて開く。
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