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「ある」オヤジは言下に答えた。「実際おぬしは死にかけたではないか。身をもって、知ったはず」
「ああ、死にかけたさ。たしかに死ぬと思ったよ」オヤジにひとさし指を突きつける。「じゃあ、死んだら俺はどこへ行くんだ」
「あの世じゃ」
「ここがあの世なんだろうが」
「そうじゃ。だから死んだら、またここへやってくるんじゃ」
「へっ」俺は阿呆のように表情を弛緩させた。「死んだらあの世へ行く。だから、またここへやってくるだって」
「うむ」オヤジは目を閉じて大きく頷く。
「それはつまり俺が最初に目が覚めたところへ、ってことかなのか」へなへなとその場に崩折れた。「そうなのか。答えろ」
オヤジを横目に、俺はかぶりを振った。
「いや。やっぱり答えなくていい。どうせそう答えるに、決まっている」ますます力が抜けていく。「事故ったあと、俺はあそこにいたし。そしてあんたが人口呼吸をした理由は俺を死なせないため、ね。神が不注意で人を殺すわけにもいかないだろうから。うんうん。蘇生率百パーセントの魔法の人口呼吸」
水平線の彼方をぼんやりと見つめた。
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