29人が本棚に入れています
本棚に追加
梁瀬秋広(やなせあきひろ)。
彼はこの春に中学校を卒業し、高校生となったばかりだ。
教科書で重くなった鞄や、慣れない高校での授業のせいで疲れが溜まっていたのだろう。
梁瀬は駅から家に向かう帰りのバスで寝てしまい、終点まで乗り過ごしてしまったのだ。
全く見覚えのない風景に不安を感じた梁瀬はすぐに時刻表を見た。
が、バスは30分に一本しかなく、次に来るのは30分後だった。
辺りを見回しても、コンビニなどといった暇を潰せるような店は皆無だ。
あるのは山を削って造られた道路と、山の下に広がる風原町の街並みだけだった。
道路から見下ろした街は、夕日のオレンジできれいに着飾られている。
左手には、遊園地のシンボルであるジェットコースターのループが飛び出し、その隣では大型ショッピングモールが今日最後の賑わいを見せている。
右手には、斜面にできた閑静な住宅街があり、そこでは子供たちが楽しげに走り回っているのがわかる。
『俺はいったいどれだけ寝ていたんだ?』
梁瀬はそう思った。
梁瀬のいる場所は山と海に囲まれた町並みを一望できる。
自分の家がある方角を見て、その距離を実感した。
何もすることがなく、梁瀬はバス停のベンチに腰をかける。
ふと前を見ると、山の上に続く石段と鳥居があった。
神社があるのだろう。
柳瀬は時間を確認し、その鳥居をくぐった。
最初のコメントを投稿しよう!