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梁瀬が目を覚まして最初に見た光景は、木造建築の天井とこちらを覗き込むように見つめる少女だった。
「おはよう」
「お、おはよう…」
梁瀬は上体を起こして周囲を見渡す。
十畳ほどの和室の中央で梁瀬は寝かされていた。
そして、その横では濡れたタオルを片手に持った少女が一人、正座をしていた。
外見から判断して、歳は15くらい。
その顔は年相応に愛くるしかった。
吸い込まれそうなほど美しい黒髪は腰の辺りまであり、襖から射し込む陽の光の中でも色が変わることはない。
少女が着ている着物は黒一色で、満開の桜が優雅に描かれている。
桜色の帯は後ろで蝶ネクタイのように結ばれていて、それが彼女の愛らしさを引き立たせていた。
梁瀬は、まだ痛む頭を押さえて少女に尋ねる。
「君は?」
それを聞いた少女はむっとした表情をして答えた。
「こういうのって、まずはお礼からするものじゃないの?
あなたを運ぶの、大変だったんだからね」
少女は「どうだ」と言わんばかりに胸を張った。
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