189人が本棚に入れています
本棚に追加
イーサはそんなバクのまっすぐな視線から眼を反らす。
その表情は一人でベンチに佇んでいたあの時のように沈んでいた。
「……やっぱり、こんなに違うんだ」
イーサが呟く。
顔を俯かせたまま、その小さな体は徐々に小刻みにふるえていく。
「先輩はどうしてそこまで……?
やっぱり滅ぼされた一族のため……ですか?」
「…………」
バクはバツが悪そうにイーサから眼を背ける。
その口からは自然とため息が零れ出る。
「……どうだろうな。結局これはただのエゴなのかもしれない。ただオレにとってそのエゴは国を動かすには充分すぎる理由になる。
それだけオレはあの日、大切なものを失った……。
お前だって違うとは言わせない」
イーサは伏せていた顔を上げる。
瞳からは涙が溢れるように流れ出していた……。
涙はイーサの心情を語るように虚しく落ちて、イーサの膝を濡らしていく。
「私だって大切なものは失った。失ったはずなんです……。
でも、ないんですよ。実感なんて……私には……」
最初のコメントを投稿しよう!