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「どうしてだ?」
首を傾げるバクにイーサは感情を押し殺すように無理矢理笑ってみせる。
「私には無いんです。あの時の記憶が……
ただ、そうしなくてはいけなかった程、それは私にとってショックな出来事だった。……ただ、それだけなんです」
染みでるように湧き出す記憶がイーサの頬を再び涙で濡らしていく。
過去や真実と呼ぶにはあまりにも小さな記憶の断片だ。
「気がついた時、私は一人ぼっちだった。
周りからは汚い物を見る眼で見られて、まともに口なんか聞いてくれる人なんて一人もいなかった。
理由は勿論、私が魔女と呼ばれる血を受け継いでいたから。
苦しかったし、寂しかった。
けど、それでも私は死のうとなんて思わなかった……。
望んで死んだわけでもない一族の皆に顔向けができないから」
イーサはたえず零れ落ちる涙を袖で拭う。
「私は皆のためにただ生きていきたい。死にたくない。
……ようするにちっぽけなんですよ、私……
先輩みたいに世界を救うとか変えるとか以前にまともに前にすら進めない。
やっぱり、私と先輩とは違い過ぎるんです……。
私は、私はただ…………うにゅ!?」
イーサの頬に突然、突き刺すような鋭い痛みが走る。
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