祖父の古城にて

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荷物は使用人が運んでくれたので、菫は階段を上がって毎年使う部屋に入った。 菫用に祥一朗が設えたこの部屋は壁紙からベッドカバーなどのほとんどが菫色に統一され、所々に金の装飾が、あくまでも上品に、美しく施されている。 机や椅子などの家具はアンティークで19世紀に造られたもので、祥一朗の収集品の一部である。 祥一朗は妻で料理研究家であった百合子の趣味であったアンティークの家具や食器の収集を、百合子が亡くなった後、自分の趣味として引き継いだのである。 祥一朗は西洋史(特にフランス王家の歴史など)の研究者であり、著書も多数出版されている、その道ではなかなかに有名な人物だ。 妻である百合子が病気に倒れた折、フランスに移住する事を決意し、この古城を買い取り、百合子が亡くなった今もここで生活をしながら研究活動に励んでいる。 菫にとってはこの祖父が誇りであり、大好きな人物である。 そして毎年、夏にこの古城に訪れるのが恒例となっているのだ。
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