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当然だが、少年の募金は全て銀行に返された。
それが、事件を耳にした人々のほぼ全てに、なんだかもやもやとした嫌な感情を抱かせた。
「当然の始末だが、少年があそこまでした募金が無駄に……」
という、妙な腑に落ちなさだ。
その後、少年は警察による尋問に対して一切の説明をしなかった。
彼の周囲の人間は雁首を揃えて「そんなことをするような人ではなかった」というような供述ばかりで、彼の動機に繋がるような事柄を一切口にしなかった。
しかしながら、事件のあらましは主犯とおぼしき少年ではなく、共犯の容疑者達から引き出された。
容疑者Aはこう語る。
「サイトで知り合ったんです。
『この世界を否定する』という名前のサイトで、世界をありとあらゆる方法で否定するというサイトです。
初めは討論だけだったんですが、次第に方向がおかしくなって、こんな犯罪を犯すことになってしまったんです。
子どもが死んで、自暴自棄になっていたのかもしれません。今では後悔しています。どうしてこうなってしまったでしょうか……」
容疑者B。
「この世界は人を苦しめるためにある。
そうだとしたら、その苦しめている最もたるものを破壊すれば、世界を否定したことになるでしょう?
ええ、それは『価値観』というヤツです。
ですから私達は価値観を破壊するために、リスクとリターンを度外視して手に入れたものを無為にしたのですよ」
容疑者C
「彼は危険な人だ。今すぐ死刑にして欲しい。
私はそれを言うためだけに今は生きているのです。
そう、あれは失敗したのだから……」
どうやら少年は世界を否定するためにあれだけのことをやらかしたらしい。
それはもう━━━━精神異常だ。
彼には責任能力が無いと判断すると同時に、病院送りにして、二度と世間に出て来られないようにする必要性がありそうだ……。
そう思っていた矢先に、少年は失踪した。
厳重な警備を物ともせずに。
煙のように、消えた。
とある公務員の手記【非公開】
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