プロローグ

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まどろみの中に居る。あたたかくてやわらかいそこは無条件の安心をくれる。 生憎とってもせまいので壁に手足が当たることもある。やわらかいからダメージはない。 ある日唐突にそこから出された。痛いし苦しいし怖いしでもうたくさん。 私は子供のように泣き叫ぶ。 もうわけわかんない!! 数日後、私を抱っこした"お母さん"の横で"お父さん"が言った。 「この子の名前は"麻衣"。谷山麻衣だ!」 えええぇぇぇぇ…… どうやら私は生まれ変わった模様。夢かなこれ否こんなリアルに痛い夢は嫌だ。 しかも聞き覚えのある名前…てかこれ漫画のキャラの名前じゃん。 偶然にも程があるって。…呼ばれたらちゃんと反応できるかなぁ。 結果から言うとそんなこと心配してる余裕はありませんでした。 なにこの羞恥プレイ。赤子の身体は筋肉が発達してないからなにもできない。 着替えも食事も寝返りも入浴も…トイレにも一人ではいけない。オムツ替えは悪夢だ。 そして喋ることができない。こちらは身体の発達と言うよりは常識の問題である。 意識…てか人格?はそのままなわけだから言葉はわかる。話せる。 が、しかし!ここで第三者の目から見てみよう!普通に会話する新生児。キモすぎる。 私は異端児になるつもりなんかさらさらなかったので我慢した。ひたすら我慢。約3年くらいは我慢した。かなりのストレスだった。 ずっと「あー」だとか「うー」だとか母音ばっかり言い続け1年後には単語だけ喋るくらい。2年目で連語をマスターし、3年目で大体普通の会話に…。幼児言葉って難しい。"前"は末っ子で下の子はいなかったからよくわからないけど多分これでいいはず! 両親や近所の人も多少物覚えのいい子くらいにしか思っていないみたいだし!どっかで得た知識に乾杯!役に立つもんだね! そして赤ん坊といえば泣く。でも精神は赤ん坊じゃないもん泣けねーよ。どーしよ。 杞憂でした。不快感、空腹、不安、そんなものを覚えると泣き叫びたい衝動に駆られるようになった。 適度にその衝動に身を任せれば自然と赤ん坊らしい泣き声が出た。…やっぱり恥ずかしいのでたまに衝動を抑えていたので両親にはあまり泣かない子供として認知されてたみたいだけど。 ちなみに目はばっちり見えました。まぁ、赤ん坊って"見えてない"んじゃなくて"見たものを脳が認識できていない"らしいからね。 認識できる基礎さえあれば見えるっつーことか。
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