第一章「新人」

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言葉が解読不能になって流れていく───新人軍人のミホ=カナセはそう思った。新しい教官の話なのだが、ミホには集中力の限界が訪れていたのである。ましてや、ミホは本当に軍人になりたくて軍に入ったわけではない。新たな星、緑王星、水王星、鉱王星、神王星の四つが発見され、多少のいざこざがあったものの地球が連邦という形で一つにまとまるとともに宇宙世紀とされて以来、地球に職はなかった。そもそもひとがいないのだ。人々は核汚染の進んだ母なる地球を捨て、こぞって出ていってしまった。ようやく正常化してきた現在の地球には他の星から護るための軍が滞在しているほか、小さな町や村がわずかにあるばかりだ。ミホは地球生まれの地球育ち。宇宙に出て職を探すという手もあったが、ほぼ自給自足生活の両親に金などあるはずもなく、仕方なくミホは食うために軍人になったと言える。 根が真面目なミホは興味のない話しでも何とか聞こうとしていたのは事実だ。しかし、こうして集団の一人として聞く話とはなんとつまらないことであろう。ただでさえ興味のない話、益々集中力が削がれるというものだ。 「───というわけだ。以上で説明は終了とする。お前達の配属先は明日の早朝までに決定される。まぁ、多くは早朝部屋に配属命令書が投げ込まれる形って事だ。では、これから夕食までの時間を自由行動とする。だが、自由とはいえ、忘れるなよ。お前達の行動の一つ一つが配属に影響することを、な。以上だ。解散」 そう言って若すぎるといっても過言ではない教官は去っていった。ミホは去りゆく教官の鮮やかな青い後ろ髪が瞳から消えると同時に欠伸をした。 自由行動と言っても、ミホには特に行くあてなどない。しいていうのなら一番配属される可能性の高いオペレータールームだが、もし配属となれば飽きて嫌になるくらい見ることができるので気乗りしなかった。そう考えている間にも集団は霧散し、ミホだけが大ホールのほぼど真ん中に立っていた。どうやらミホだけが行き先を決めていなかったようだ。
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