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「香水?」
手渡された小箱を開けると、紫に透き通った小瓶が出て来た。
私にそれを渡した相手は、テーブルに肘を付いて機嫌よさ気に笑っている。
「うん」
「新作?」
「そ」
軽く小瓶を揺らすと、中の液体がちゃぷちゃぷと音を立てた。
瓶が紫色だから中身がどんな色なのかは分からない。
香水調合師という、ちょっと聞き慣れない職業を選んだ恋人は、だいたい四季の初め辺りに、新作の香水を持って来る。
「いつも思うんだけどさぁ、アタシは実験台?」
仕事の延長線上の毎回のプレゼント。
嬉しくって堪らないのに、あまのじゃくな性格が災いして、全く可愛くない言葉をはいてしまう。
「まさか」
それでも彼はにこにこと笑ったままだ。
なんだか自分ばっかりな気がして悔しい。
「これね。ライラックの香りがメインなんだ」
「ああ。だからビンが紫なんだ」
「そ。この香り嗅ぐ度にボクの事思い出してくれればいいなぁって思って」
「~…!」
流石に香水調合師なだけある。
クサい男。
「………気に入らなかったら、付けないからね」
でも、この男が作った香水でアタシが気に入らなかった香りはないのだ。
次に会う時には、ライラックの香りを付けたアタシとデートする事になるだろう。
それを分かっているからか、相変わらずにこにこと締まりのない顔でこっちを見つめている男を睨みつけた。
…多分アタシ今、顔朱い。
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