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俺の目の前で祈りを捧げる女がいる。纏った服は、質素な、人目で修道服だと分かるそれだ。
これが舞台が教会なんかだったなら、そりゃもう絵になる光景だっただろうが、ネオンがギラギラ輝く街の、チンピラが死屍累々と転がってる薄汚い路地だ。
時々うめき声が聞こえるから生きちゃあいるんだろうが、それならそれで救急車を呼ぼうともしていない。冷静そのものに、優雅な動作で祈っている。
「中々シュールな光景だな、シスター」
声をかけると、ぴく、と肩が揺れる。
振り向いた女は、大人しそうな、清純な美人。正に、百人に尋ねたら百人が答える『シスター』のイメージそのものだ。
まさかこの地獄絵図を作り出した人間だとは思えない。…いや、俺もその一人なんだけどさ。
足元に転がしたスキンヘッドを踏み付けてシスターの元に近寄る。
「そうですね。私は罪深い女です」
表情は変わらないまま。冷静沈着を体言したような女だ。相変わらず。
「主は私達の罪を購う為、茨の冠を被られました。だから私は、」
「あー、はいはい」
また長ったらしい演説が始まりそうだったので、手を引っ張る。
据えた臭いが漂う路地裏からはとっととおさらばしよう。
「信仰結構宗教結構。俺はシスターがいればいいよ」
「はぁ」
意味が分かってなさそうな、きょとんとした顔のシスターを連れて夜の街を歩きはじめる。
今日のねぐらは、さて、何処にしようか。
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