一限目

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膝を触られたのが最初だった。 金曜日の午後にある選択授業の時、担任はいつも私の席の近くにいた。担当教科は美術。 私が見ていない成人向けの深夜番組の話をしてきたり、担任が10代の頃の写真をわざわざ持ってきて見せてきたり、延々とつまらない雑談をしてきた。 時々他の生徒の様子を見には行くが、すぐに戻ってくる。 毎週うんざりしながら絵を描く手を休めて担任の話を聞いている振りをしていた。 ただその日は珍しく真面目な話をしていた。 受験の日が数ヵ月先に迫っていた。 担任と私は二人、背もたれのない美術室の椅子に向かい合わせに座り、進学に関する話をしていた。 美術系の短大に行きたいという私に対して芸術論を暑く語り出す担任。 「僕はね、元々サラリーマンだったんだよ。でも入社二日目に会社に連絡を入れずに友達とドライブに行ったんだ。 そしたら次の日、上司に『君、もう来なくていいよ』って。それで教職を持っていたから教師になったんだ」
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