一限目

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へたり込んだまま未だ誰一人として通らない薄暗い景色をぼんやりと見つめていた。 しばらくして反対側の大通りから担任の車が入ってきて高校の方へと帰っていくのが見えた。 先ほど大通りに出た後、すぐにUターンしたのだろう。 きっと何事もなかったかのように職員室に戻るのだ。 「女子生徒が危険な目に遭わないように駅まで送った」などと、汚れた嘘をたくさん並べて。 ―――進路も決まっていて後は卒業を待つだけだったはずなのに。 今の時期にこんなことを誰かに知られたらどうなる? クラスからも二人、コースは違うが来年から同じ短大に行く予定だ。 もしそこで噂をバラ撒かれたら? 雨の雫に紛れて涙を流し、びしょ濡れになりながらなんとか電車に乗り継ぎ私は家に帰った。 担任にされたことを母親には話さなかった。 正直に話したとしてもなにも変わらない。そう思ったからだ。
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