240人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
男は走りに走って、やっと待ち合わせ場所までたどり着いた。
彼女はすでに待っている。
後ろ姿ではあったが、その華奢な体つきに、艶やかに伸びた髪を男が見間違えるはずはない。
男は自然と笑顔を溢しながら、赤い傘をさす彼女に近づいた。
すると、突然彼女の傘が落ちた。
当然雨が彼女の髪に落ち、濡らしていく。
何が起こったのか、男には分からなかった。
傘が落ちて初めて、彼女の向こう側に若い男がいたことに気がついた時、その若い男は素早く彼女を抱き締めていた。
支えがなくなった赤い傘が、コンクリートの地面を転がる。
足元まで来たその傘を、男は反射的に持ち上げていた。
傘を手に取りながら彼女に目をやった時、彼女もこちらを見た。
もしかしたら若い男もこちらを見ていたかもしれない。
男は、何が起こったのか分からなかった。
最初のコメントを投稿しよう!