第一章 帰省と悪夢

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 早朝、上野駅を出発したスーパー日立は東北へ向かって静かに走る。スーパー日立の六号車、前から六番目の左、窓側の席にアサギは座っていた。   頬杖をついて窓の外をぼうっと眺めるアサギ。建物は少なくなり、田畑や森が多くなっていく。都会からは遠かった山々も今は間近に見えている。故郷に近づいている証だ。  アサギはいわゆる女子高生アイドルである。普段は学業に励みつつ、週一で上京を繰り返している。今はその帰りだ。   まともに休みの取れない生活は予想していたよりも大変だったが、それ以上にアサギは今の生活を楽しんでいる。それに明日からは夏休みだ。アサギは満面の笑みを浮かべて、 「思い切り羽を伸ばすわよ~。…ふわぁ」   大きく欠伸をするアサギ。朝早くに仕事先を出たので、眠い。向こうに着くまではあと一時間ぐらいだ。 「それまでは寝てよ」   アサギは座席に浅く座り直して、瞼を眠気に任せて閉じた。小刻みに揺れる振動が心地よく、アサギはすぐに眠りに落ちた。
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