Prologue 1:冬合宿

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「それってさ」美奈が紙コップに残った梅酒を全部飲み干した。そして軽く微笑む。「人は見た目だけじゃないってことだよね。外見は合わなさそうに見えても、心の中では通じ合えるものがあるから……」  彼女が言葉尻を濁したのは、この言葉が言った彼女自身の心にトゲのように突き刺さったからである。心から通じ合える存在。彼女はそれを、大学という新しい環境に入ってから手に入れられずに思い悩んでいたのだ。その原因が自分のせいであることは分かっている。自分から接近しても、心理的な壁を作りだしてしまうのだ。  現に今、幸助との間にも壁が一枚存在している。真横に座っていながら、騒がしい中でも聞こえるように近接していながら、彼女は幸助の目を見て話そうとはしていないのだ。何度か彼の方に目をやることはあっても。 「でもその逆もあるだろ? 似ているのに犬猿の仲とか。いや、その場合はむしろ似ているからこそかも」 「あーそれ分かる。主人公とライバルって似てるんだよね、なぜか」 「あとは、性格が真逆なのにもかかわらず意気投合してるとかな」 「ふふっ、ウチらもそうだったよ、さっき話した友達。そもそもが文系と理系で考え方が違うのに、甘い物が好きとか辛いのが好きだとか、アイドルの好みも方向性が一致しないのに……何故か喧嘩にならないんだよね」 「じゃあ共通の話題って何だったんだよ?」 「漫画だよ」美奈はそのタイトルを言った。「知ってる?」 「ああ、詳しくは知らないけどあらすじくらいは。まだ連載してるんだっけ?」 「うん、まだ続いてる。私入院してる時にその漫画読んでたんだけど、最初の勉強会の時にその話したらみんな乗ってきてくれてね。嬉しかったよ、漫画一つでここまで仲良くなれるなんて」 「そりゃあ良かったな」  幸助も幸助で、美奈に対し一歩距離を置いているような態度である。退屈しのぎにはなるかと話しかけてはみたものの、相手の態度から近づくに近づけないのだ。 「うん、それでね――」image=450222098.jpg
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