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「素敵……やっぱり天文研究会に入れば良かったかも」
「星好きなの?」
「うん。家の近くにプラネタリウムがあって、ほぼ毎月行ってたんだ。三年前に閉館しちゃったけどね。星にまつわる神話とか歴史とか、面白い話がいっぱい聞けて楽しかったんだよ。係の人も詳しくってね」
夜空を見つめる美奈の目の中に、幸助は星を見いだしたような気がした。
「そりゃ、残念だったな」
幸助は視線を落とし、両腕を手すりにもたせかけた。そこでふと気付く。あの輝きの正体は、実は涙だったのではないかと。
「電車で一時間は乗らないとプラネタリウムがないから、もうここ二年は行ってないなぁ」
「去年は受験で忙しかったし、一年生のうちは必修科目で忙しいし?」
「そうそう。んー、やっぱここやめようかな」
美奈の声色には迷いが全くなかった。以前から思っていたというのもそうだが、このサークルに留まるだけの理由もないのだった。
「好きにすれば良いよ。『来る者拒まず去る者追わず』が方針だそうだから」
ところで、彼らがいるこのベランダは団地のように二部屋分が一続きになっていて、衝立で仕切られている。その向こうから男の声がした。
「その声はやっぱり幸助か?」
そちらに目をやると、やや無骨な顔立ちの男がこちらに顔だけを出していた。
「なんだ、欽二いないと思ったら隣の部屋にいたのか。いつの間に?」
「抜けようと思った時お前は遊んでたからな。ところでその娘は?」
三人の位置関係上、小柄な美奈は幸助の陰に隠れてほとんど見えないはずである。がしかし長身の欽二からはフェンスに体を傾けた幸助の肩越しに彼女が見えた。
「一人でつまんなさそうにしてたから話しかけてみたんだ」
だから、美奈が欽二の顔を見るためには首をわずかに動かすだけで良かった。
「つまりナンパか」
欽二の軽口に美奈は肩をびくっと震わせたが、男二人はそれに気付かなかった。
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