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少女二人は買い物を済ませ、これから袋詰めしようというところだった。
「美奈、駐車場行って二人が来てないか見てきてよ。来てなかったら幸助に電話してね」
「え、私が?」
「うん、詰めるのはあたしがやるから。いい、電話するのは助手席にいる幸助に、だからね?」
「え……ええ?」
美奈は菜摘の言葉が理解できていないかのように目をぱちくりさせ、その目を見やった。菜摘は何も言わずにただウインク。彼女の言わんとすることは、美奈にはあまりにも明白だった。菜摘が一度言いだしたら聞かないことはよく知っていたので、美奈はその意図に従い店の外へと出る。
冷房に慣れた体にはあまりに不快な熱気が吹き付けた。相変わらず車がまばらな駐車場を見回すが、知り合いの男らの姿は認められず、避難するかのように店の中へと駆け戻った。
入り口横に据え付けられた休憩用のベンチに腰かけ、携帯電話を取り出す。待ち受けは、ゴールデンウィークに四人で初めて小旅行に行った時の写真だった。前列に美奈と菜摘が並び、その後ろでは幸助と欽二が肩を組んでいる、山の中で撮影したものである。デジカメで撮影したものを携帯用に縮小したため画質はあまり良くないが、それでも彼女はこの写真を気に入っていた。
その写真に代わり、電話帳が表示される。キーを操作して目的の項目を呼び出すと、冷房が効いているにもかかわらず彼女は手に汗をかいた。
意を決し、美奈は通話ボタンを押した。呼び出し音が一回鳴るたびに、彼女の心拍数が上がっていく。六回目のコールの後、幸助とつながった。
「もしもし……うん、今買い物終わったよ……そう、あとどれくらいで着きそう? ……分かった、ありがとう。じゃあね」
そそくさと慌てて切ろうとしたからか、美奈は携帯を取り落としてしまった。それが滑っていき、近くにいた一人の足元で止まる。
「あ、すみませ――」
「もう、何やってんだか」
菜摘だった。一歩下がって美奈の方を見る。拾おうとしないのは、今彼女の両手は買い物袋でふさがっているからだ。美奈はかがんで電話を拾い上げた。ポケットに押し込みながら、菜摘にあと十分くらいで着くという電話の内容を報告した。
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