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「じゃあつまり、あたしを利用しようとしてグループに引き込んだんだ?」
すると美奈は慌てふためいた様子でそんなんじゃないよ、と否定した。それに対し菜摘は、美奈の反応を楽しんでいるかのようにからからと笑っている。
「分かってるよ。でもあたしが入っても良いって言った時、ちょっとは安心したでしょ?」
美奈は照れ隠しのように頬を掻きながら「まあ、それは……」と言葉尻を濁した。
はっきり肯定すれば菜摘を利用したことになるし、否定すれば菜摘に対する友情を否定することにもなりかねない。美奈には、そんな風に曖昧な返事をすることしかできなかった。
「あたしもね、このサークルに入って良かったって思ってるんだよ」
菜摘は恥じることなく、むしろ誇るようにそう言ってのけた。ただこの場合、サークルと言ってもむしろそのままの意味、友人の輪に入れて良かった、という意味合いを持っている。
ところで美奈と菜摘に幸助と欽二を含めた四人は「旅行サークル」を自称するものの、大学には認められていない(その理由には人数不足と顧問の不在が挙げられる)。となれば、これはもはやサークルと呼ばれるものであるかどうかも実のところ怪しい。それでも彼らは、旅行サークルとして結束した仲間であるのだ。
「四月のガイダンスで誘われた時は、誘われたからとりあえず入ってみるかって感じだったの。気に入らなければ抜けるつもりだった。でもあの二人と接していくうちに、いつの間にかそこが私の居場所になってた。だから、今なら言えるよ、美奈。あの時誘ってくれて、ありがとうって」
「て、照れるな」
美奈がおずおずと菜摘の顔を見ると、彼女も同様に顔を赤くしていた。
「自分で言っておきながら……気恥ずかしくなっちゃうね」
「でも、そうやって自分の思ったことをすぱっと口に出来るのが菜摘ちゃんの良いところだよ」
一瞬だけ、菜摘の眉が跳ねた。だがその僅かな変化は美奈の目には見えなかった。
「……ありがとう、美奈」
その時、彼女らから見て左手側にある自動ドアが開いて、二人の男が入ってきた。
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